建物は地震にどこまで安全か? ~専門家と一般の方との橋渡し~


A6 耐震性の高い建物を造るのに、建設費はどのくらい上がりますか?

 

 建物は地震に強いことに越したことはありません。しかし、強くするにはそれなりに建設費が上がると考えますが、それは一体どのくらいでしょう。

例えば、建築基準法に則って普通に設計された建物の建設費に比べて、地震に対してより強い建物を造るために、建設費はどのくらい上がるのでしょうか。これは、誰にとっても関心事のひとつです。

 

この傾向を概略把握するため、ここでは次のような条件のもとにケーススタディーした結果(注)をご紹介します。 

検討の対象とした建物は、ごく一般的なRC(鉄筋コンクリート)造及びS(鉄骨)造の中層、SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造の高層、そしてS造の超高層です。

一般的な耐震設計クライテリア(応力や変形の許容値)を満足するように、設計地震力を上げた時に、建設費がどのくらい上がるかを検討したものです。砕いた表現をすると、大きな地震が来ても建物が壊れないようにするために、建設費がどのくらいアップするかを見たものです。

なお、建設費を算定する際には、総建設費に対する躯体工事費の割合を30%と仮定し、躯体コストは各建物共通に、検討した当時の標準的な材料・工賃の単価を設定しています。

検討の結果を下の図に示します。

図 標準剪断力係数(C0)と建設費の関係 出典:(注)

 

図は、横軸に標準剪断力係数C0(設計地震力)を、縦軸に建設費(C0=0.2の時を1.0とする)を示したものです。

これより、

① 各建物の標準剪断力係数C0と建設費とは、構造種別によらずほぼ比例関係となる。

② 「住宅性能表示制度」で示される耐震等級2、3(建築基準法で規定する標準剪断力係数の1.25倍、1.5倍とした場合に相当)の建設費の比率は、それぞれ2.5%、5%程度の増加になる。

後者は、「高々5%程度の建設費の増加で、1.5倍大きな地震に耐えられる」と言うこともできるでしょう。

 

この建設費の増加が高いか安いかについては、建物に求められる安全性の程度、建物が建物としての機能をどの程度守らなければならないか、地震後に建物の継続使用性がどの程度高いか、等々の面から個々の建物ごとに判断されるものと考えられます。

また、耐震等級「ライフサイクルコスト」のところで示したように、建設費と修復費をあわせて考えれば決して高くないと言える場合もありましょう。

 

次に来る地震がどの程度強いものか確定論的に論ずることはできません。しかし、一旦被害が出るとその影響は多方面にわたり、回復することは容易ではありません。

安全にどのくらい投資するかは非常に難しい問題ですが、非木造建物に限った上の検討結果ではありますが、耐震性向上のコストは意外に小さいと言うことができるのではないでしょうか。

 

(注)神田ほか:「地震荷重を変動させた時の各種建物の建設費について」日本建築学会大会学術講演梗概集、1994年9月