建物は地震にどこまで安全か? ~専門家と一般の方との橋渡し~


ホームページのねらい

 

首都直下地震や南海トラフ巨大地震が明日起きてもおかしくないと叫ばれるなか、熊本地震や能登半島地震など日本では全国で強い地震が続いています。「自分の家は大丈夫?自分のマンションは問題ない?」と気になっている人は少なからずいらっしゃると思います。

 

一方で、その対策となると、「地震や建物の話しは難しい、専門家に任せておけばよい、法律を守っていれば大丈夫」と考えている人が多いのも実情のようです。

 

「地震に対する建物の安全」というテーマに、総合建設会社の構造部門に長らく従事してきた講師は、『建物を提供する側の専門家と、購入・使用する側の一般の方との間に、建物の安全に対する認識に大きな溝がある』ことを感じてきました。

 

一般の方(建築主、建物所有者・利用者など)は通常建築の素人であり、建物の安全に直接関係する建築構造の知識は乏しく、それを得る機会も非常に少ないのが現実です。従って、いざ建物を建てる、マンションを購入する、建物の耐震性を調べてみようとするような場合、初めて専門家の話を聞いても、建物が地震にどこまで安全なのかなかなか理解しづらく、両者の間にどうしても溝が生じ易いのが現状です。

 

この溝を少しでも埋め、一般の方の理解を進めるために、講師は一般の方から小・中学生まで、要望があれば出向いて講演を開いたり(講演依頼へ)、日頃聞いたことはあるが良く分からないことの質問に回答するなど(質問・相談へ)して、とかく専門的で難しいと言われる地震に対する建物の安全について、これまで培った経験を生かして分かりやすく説明し、構造専門家と一般の方の橋渡しの機会がつくれれば、と考えこのホームページを開設しました。

 

ご質問にお答えします 

 

お住いの建物やマンションの耐震性に、不安や疑問をお持ちの皆様へお答えします。 質問・相談へ ≪受付中≫

  

地震と建物の安全について、分からないことを易しく教えて欲しい皆様へお答えします。☞  講演依頼をご参照のうえお問合せ

 

東京都の学校教育に関わる校長先生、教職員の皆様へ :

講師は、小・中学校の児童・生徒を中心に学校における防災教育の支援を目的に、東京学校支援機構の人材バンク ”TEPRO Supporter Bank”に登録し、講演・授業(☞ 講座リーフレット参照)の依頼を受け付けています。

ご要望がありましたら本ホームページからもご相談に与りますので、講演依頼をご参照のうえお問合せまでご連絡下さい。

 

以下のような建物の安全に関わる基礎的な知識については 、「建物安全の基礎知識」の各項目を参照ください。

Q1 地震に危ない建物の見分け方はありますか?  ☞ 「地震に危ない建物

Q2 建築法規を守っていれば大地震にも安全な建物ができますか? ☞ 「建築基準法は安全の最低基準

Q3 新耐震と旧耐震の違いはなんですか?  ☞「新耐震と旧耐震

Q4 制震、免震の使い方、耐震との違いはなんですか?  ☞「制震・免震の使い方

Q5 地震に強い建物にするにはどうしたら良いですか? ☞「耐震性能グレード、耐震等級とは?

Q6 耐震性の高い建物を造るのに、建設費はどのくらい上がりますか? ☞「耐震性向上のコスト

Q21 耐震診断はどのように進めるのですか?   ☞「耐震診断とは? 

Q22 構造耐震指標Is値はどの程度あれば良いのですか? ☞「Is値ってなに?

Q23 耐震設計と耐震診断の違いはなんですか? ☞「耐震設計と耐震診断の違い」 ★new★

 

地震と建物~雑録ブログ

▶ 木造住宅が地震でこわれる時、こわれない時 2024年8月25日 ★new★

最大震度7を観測した2024年能登半島地震では多くの木造家屋が倒壊するなど甚大な被害が生じました。日本建築学会の調査*によれば、これまでの地震被害と同様に、旧耐震の壁量の少ない木造住宅が多数倒壊、また、新耐震の木造住宅の倒壊も確認されましたが接合部が現行基準を満たさないものが多かったことが、そして、旧耐震であっても耐震補強した建物では被害軽微なものがほとんどであったことが報告されています。

これらから言えることは、「古い建物やアップデートした耐震基準に沿わない建物は被害が大きくなる可能性が高いが、きちんと耐震補強すれば建物の被害を軽微にできる」という、これまでにも認識されてきた建物の耐震化にとって肝心な点が再確認されました。

では、被害を減らすためにどうしたら良いか、どのように考えれば良いか等について、本ホームページでは主に技術的な観点からその概要を示しています。

耐震基準のアップデートすなわち新耐震と旧耐震の違いについては☞「新耐震と旧耐震」を、地震に危ない建物の易しい見分け方については☞「地震に危ない建物」を、簡単な耐震診断については☞「耐震診断とは?」を、さらに地震に強い建物にする考え方については☞「地震に強い建物」を、それぞれ参ご覧ください。

なお、住宅の耐震化を進めるための公的な施策を含む様々な方策や備えに関しては、最近公表された☞「木造住宅の安全確保方策マニュアル」(国土交通省住宅局 令和6年8月)が参考になろうかと思いますのでご紹介します。

*「2024年能登半島地震災害調査報告会」日本建築学会災害委員会 2024年8月

 

▶ 能登半島地震から半年

 2024年7月1日 

本年(2024年)元日に起こった能登半島地震から半年が経ちました。現時点で地震による犠牲者は災害関連死を含み281人、住宅の全半壊は3万棟に上ろうとしています。これら被害を受けた建物のうち公的な費用による解体を申請したのは約2万棟とのことですが、解体が完了したのは4.4%の900棟余りで復興の大きなネックになっています。地震直後とほとんど変わらない崩れた家屋の姿を目にすると本当に見るに忍びません。

この地震で石川県の志賀町では震度7を観測しました。震度は地震の揺れの強さを示す尺度で、現在の震度は気象庁が兵庫県南部地震を機に定めた震度0~7までの計10段階(震度5,6のみ強・弱の2段階)となっています。震度7は最大のランクで、過去に震度7を観測した地震は表に示したように計7回(熊本地震では1日を空けて2回観測)あります。

この表からも分かるように、この約30年間で平均5~6年に1回、全国のどこかで震度7の大地震が起きていることが分ります。前回のテーマに引き続き「日本はいつでも地震国」であることがこの表からも言えそうです。

 

▶ 「日本はどこでも地震国」2024年4月30日 

地震というとよく聞く言葉に「地震発生確率」があります。よく知られているものに、政府の地震調査研究推進本部の発表する全国地震動予測地図があります。これは今後30年間に地震に見舞われる確率を示し、南海トラフ地震(M8~9)で70~80%、首都直下地震(M7程度)で70%とされ、逼迫性の高い大地震として指摘されてから久しいです。

このような中、2016年には熊本地震(M7.3)が、2024年には能登半島地震(M7.6)が起こりました。両者の事前の確率はそれぞれ0~0.9%、0.1~3%と評価されていたこともあり、実際の地震の発生と予測確率との違いに違和感を持った人もいたかも知れません。

これは、確率が低いからといって地震に安全な地域ではないこと、油断してはならないことを意味しています。

確率評価の詳細やその見方の注意点については別説明*1に譲りますが、このような誤った印象に傾かないよう中央防災会議では図*2のような地図を示しています。日本では未知の活断層の存在なども否定できずM7程度の地震はいつどこで起きても不思議ではないと地震の専門家に言われています。もし、全国各地でM7程度の地震が起こったらどのくらいの震度分布になるかを示したのがこの図です。

これから、日本ではどこでも震度6弱(黄色)以上の強い揺れに見舞われることが分ります。

地震の備えは、「地震はいつ来る?」ではなく「地震はいつでも来い!」が相応しいと言えるようです。

*1 全国地震動予測地図2020年版 地震調査研究推進本部 2021年

*2 首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)中央防災会議 平成25年

 

▶  地震の間 2024年3月9日 

滋賀県の彦根城には「地震の間」と呼ばれる建物があります。これは約200年前に建てられもので、柱の足元を足固めで緊結したり天井裏に筋交いを使用したりして地震の対策がなされています。(写真)

阪神大震災以来、地震の犠牲者のほとんどは建物倒壊による圧死と言われています。

建物の倒壊を防ぐには耐震診断をして必要であれば耐震改修することが有効なことは分かっていますが、これを阻む大きな要因のひとつに改修にかかる費用の問題があります。これが用意できないばかりに耐震化が進まぬまま放置されている例もあると聞きます。もし何もせずそのままにして地震で建物が倒壊すれば命を失う危険を受入れることになりかねません。

そこで、せめて命だけでも守れればという観点から、耐震改修ほどの費用を使わずこれを実現しようとするツール「建物内シェルター:耐震ベッド」が考案されています。(写真下)

地震の時ここに逃げ込み、万が一建物が崩れてきても命だけでも守ろうとするもので、現代の地震の間と呼べるかも知れません。

耐震改修することが財産としての建物を守る意味からも望ましいことは当然ですが、地震から身を守る究極の選択肢として考え得るのではないかと感じます。 

〔建物内シェルター:耐震ベッド〕

https://www.shinkosangyo-as.com/

 

 

▶  応急危険度判定と被害認定(罹災証明)の違い 2024年1月20日

2024年1月1日石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6、最大震度7の大きな地震がありました。輪島、珠洲、能登地方で住宅が倒壊するなど大きな被害がありました。被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。

繰り返される地震の度に住家の被害にどう対処するかその判断が求められます。よく耳にする判定・調査でその違いが混乱して用いられるものに「応急危険度判定」と「住家の被害認定」があります。

「応急危険度判定」は、地震直後に余震などによる二次災害を防止するため、その建物に入って良いかどうか等を判定するもので、危険・要注意・調査済を建物に明示します。危険とされた建物には入ることはできません。建物がどの程度の損害をうけたものかを定量的に判定するものではありません。

これに対して「住家の被害認定」は、住家の全壊や大規模半壊など被害程度を調査し損害割合(経済的被害の割合)を算出するもので、市町村により罹災証明書が発行されます。これは被災者生活再建支援金の支給、住宅の応急修理など様々な被災者支援措置を受ける際に用いられます。

注意しなければならないのは、「応急危険度判定」を受けたからと言って罹災証明書がもらえるというわけではなく、各種被災者支援を受けるためには改めて市町村に申請し「住家の被害認定」を受けなければならないということです。

 

  海底カルデラの変動が津波を? 2023年12月20日

今年10月、気象庁が明確な地震波を捉えることができないまま、八丈島で最大70cmを観測する広範囲の津波が観測されました。原因は鳥島北方海底のマグニチュード5級の中規模地震ではないかと推定されましたが、その後の調査で鳥島南方の海底カルデラの「トラップドア(はねあげ戸)断層破壊」の可能性が指摘されています。

これは、海底のカルデラに沿ってできた円形の断層が、普段は岩盤が蓋のようにマグマだまりの上にあって周囲と固着していますが、地震でずれるとマグマの力で突き上げられ、はねあげ戸が開くように岩盤が持ち上がり、中規模地震でも大きな津波が生じるといいます。(毎日新聞12月7日)

小さな地震で津波を生じる原因は、これまで「海底火山の噴火」や「海底の地滑り」と考えられていましたが、今回の海底の詳細調査で新たに「トラップドア断層破壊」も原因のひとつに挙げられるようになりました。

津波の原因は現在でも未だ解明途上にあることを知って、津波災害に対峙しなければならないことを感じます。

 

  古の最小住宅「方丈庵」 2023年11月

平安時代の末ごろ鴨長明の記した「方丈記」に、京都日野山奥に彼が建てた、広さ一丈四方、高さ七尺程度の「方丈庵」が紹介されています。

「土台を組み、簡単な屋根を葺いて、木の継目ごとに掛金をかけた。もしも、心に入らぬことがあれば、容易く他の所へ移そうと思っているためである。東に三尺余りの庇を出して、柴を折って焚きをくべる場所とする。南には竹の簀子を敷き、その西側に閼伽棚(仏にそなえる水や容器を置く棚)をつくり、北に障子を隔てて阿弥陀の絵像を安置し、そばに普賢菩薩の絵像をかけ、前には『法華経』を置いている。東の端には蕨のほどろを敷いて夜の床とする。西南には竹の吊り棚を設けて、黒い皮籠を三つ置いている。その傍らに、琴、琵琶それぞれを一張りづつ立て掛ける。」(「方丈記」筑摩書房)

小さいながら、雨露を凌ぎ寝食を賄うだけでなく、祈りと文化的嗜好を満たす最小限の住宅といえます。度重なる災厄と激変の世を生き、”ゆく河の流れ”の末に長明が辿り着いた安息の住宅が方丈庵であったことは、人の住む拠点としての建築を考える際のひとつの大切な在り方、原点を示唆しているように思われます。(写真は「方丈庵」復元 下鴨神社ホームページ)

 

 耐震壁のヒントとなった内藤多仲博士のトランク

 2023年7月21日 

『・・・大正3~4年頃の米国留学中、鉄道で移動するのに、段々と荷物が増えてきたのでトランクの中の仕切り板をとっぱらったら、余計荷物が入った代わりにトランクが壊れてしまった。列車に運び入れたり、プラットホームに投げ出したり、重いせいでかなり乱暴に扱われたのだろう。そうしたトランクに加わるショックに、中の仕切り板が有効に働いていたのだろうということがヒントになった。建物には部屋を仕切る間仕切り壁がある。これを耐震壁というか、耐力壁と利用して建物全体がトランクのように丈夫になるに違いない。・・・』

以上は、“岳父との対話”と題する寄稿文*の中で、寄稿者小堀鐸二が亡き岳父内藤多仲を思い出しつつ綴った対話の一部を抜き出したものです。その後の日本の耐震構造の決め手となった耐震壁のヒントを得た有名なエピソードが記述された一節です。

因みに、件のトランクは小堀先生が京都大学に赴任された戦後間もない頃、内藤先生より譲られ、その後早稲田大学の内藤記念館に寄贈されたとのことです。

*「内藤多仲先生の御生誕百年を記念して」同名刊行委員会発行 昭和61年6月

 

  能登地方の地震で初めて長周期地震動の緊急地震速報を発報 2023年5月5日 

5月5日14時42分ごろ石川県能登地方を震源とするM6.5の地震があり、珠洲市では震度6強を観測しました。この地震で気象庁は今年2月から運用を始めた長周期地震動に関する緊急地震速報を初めて発報しました。

長周期地震動は周期の長いゆっくりした地震動で、震源から遠い所でも固有周期の長い高層ビルと共振して長い時間揺れ続け、室内の家具・什器が転倒したりエレベーターが故障したりすることがあります。

長周期地震動の緊急地震速報は、階級3(人が立っていることが困難。固定してない家具が移動・転倒することがある)以上を予測した場合に、階級3以上が予測される地域に発報されるものです。

この地震で能登地方に最も大きな階級4を予測し発報されました。実際に観測された長周期地震動は、能登地方で階級3、新潟県上・下越、富山県東部、石川県加賀 長野県北・中部で階級1(室内のほとんどの人が揺れを感じ、ブラインドなど吊り下げものが大きく揺れる)でした。

また、この地震では震源から約350km離れた大阪に建つ超高層ビル「あべのハルカス」で、エレベーター2基が地震の影響で停止し、上層の展望台から一時客が降りられない状態となったそうです。緊急地震速報の大阪での予測は階級1でしたが発報基準に達しなかったため発報されませんでした。ちなみに、大阪での地上の震度は「震度1」でした。

これから分かるように、長周期地震動の影響は階級にきれいに相応して出現するとは限らず、とりわけエレベーターのような設備機器は長周期地震動の影響の出方の予測が難しく緊急地震速報を注意深く利用する必要があると推察されます。

 

「阪神淡路大震災:地震で火災が起こらなければ犠牲者は減ったか?」2023年1月17日 

28年前の今日起こった阪神淡路大震災では建物の倒壊や火災などが相次ぎ、その後の「災害関連死」も含めて6400人を超える方々が亡くなりました。

「自衛隊がもっと被災地に早く来れば犠牲者は少なくて済んだのか?」

「発見が早ければ命を失わずに済んだのか? 」

「火災が起こらなければ犠牲者は減ったのか?」

これら普通に感じる疑問に対して、震災犠牲者の死因分析をもとに、とても興味深く防災上非常に大切なことを指摘した研究*があります。

『死者の92%が地震直後の14分間で亡くなった』

『建物の下敷きになった人々のほとんどは下敷きになった直後に亡くなった』

『死者の95%以上が火災ではなく建物の影響で亡くなった』。

これらの結果を消防隊や自衛隊によって救出された人数と生存率との関係や、信憑性の高い監察医の調査に基づいて導いています。

すなわち、上に述べたような3つの疑問?は間違っていたことを証明しました。

言い換えると震災の犠牲者を減らすには、まずは建物を地震で壊れないようにすることであるということになります。地震防災を考える場合に心しておかねばならないことが分ります。

筆者はまた次のようにも述べています。死者がもし話ができ、地震防災に何が一番大事かを問われたら、防災グッズの準備などとは決して言わず、建物を地震に強くしろ、と言うことだろうと。

*目黒公郎「間違いだらけの地震対策」旬報社 2007.10

 

「異常震域」 2022年11月15日 

11月14日午後5時過ぎ、三重県南東沖の深さ350キロを震源とするマグニチュード6.1の地震がありました。この地震で福島県と茨城県で震度4の揺れを観測したほか、東北や関東の広い範囲で震度3の揺れを観測しました。

通常の地震では「震源の近く」であるほど揺れが大きくなるのに、「震源から遠く離れた場所」で揺れが大きくなるため、「震域」つまり震度を感じる地域が「通常と異なる」ため、こうした現象は異常震域と呼ばれています。

このような地震は過去にも、2015年に発生した小笠原諸島西方沖の深さ682キロを震源とするマグニチュード8.1の地震では、遠く離れた関東でも震度5強や5弱を観測した例があります。

その原因は、震源から揺れがどのようにプレートを伝わってくるかよって、震度が大きくなる地域が片寄ってくるからだと考えられています。

地表の震度は一般的に、震源の場所・大きさ(マグニチュード)・地盤の性質・伝搬経路などによって決まります。震源の場所や伝搬経路によって震度が大きく変わるということは、その予測を誤ると例えば建物の耐震設計に大きな影響を与えることを意味します。過去の異常震域のデータはまだまだ限られた数のようですから、このような地震現象の不確定性を侮らずに建物の安全を考えていく必要がありそうです。

 

 寺田寅彦が感じた関東大地震の揺れ 2022年9月1日 ー関東大震災から99年ー  

大正12年9月1日 寺田寅彦は東京上野の喫茶店で知人の画家と紅茶を飲んでいたとき関東大地震に遭遇し、その時の揺れの体験を著述「震災日誌より」の中で次のように記しています。

『椅子に腰かけている両足の踵を下から木槌で急速に乱打するように感じた。たぶんその前に来たはずの弱い初期微動を気付かずに直ちに主要動を感じたのだろうという気がして、それにしても妙に短周期の振動だと思っているうちに本当の主要動が急激に襲ってきた。 ~ 主要動が始まってびっくりしてから数秒後に一時振動が衰え(本震終了)、この分では大した事もないと思う頃にもう一度急激な、最初にも増した激しい波が来て、二度目にびっくりさせられたが、それからは次第に減衰して長周期の波ばかりになった(余震終了)。』

関東大地震の揺れは、その後の詳細な調査研究により、本震はふたつの大きな断層の滑りが短時間に連続したM8クラスの双子地震であり、その後にM7クラスのふたつの大きな余震が続き、断続的に5分間の激震が襲ったことが分かっています。

上の寺田の記述と実際の本震、余震の対応を見ると、地震の揺れの現象が概ね対応していることが分かります。

99年前の相模湾を中心とした大地震時の科学者の体験の様子が、その後の根気強い地震研究によって裏付けられた興味深いエピソードです。

武村雅之「関東大震災-大東京圏の揺れを知る」鹿島出版会 2003.5

 

レオナルドダビンチの組み立て橋 

2022年7月27日 

レオナルドダビンチが考案したと言われる組み立て橋は、釘やボルトを使わず木材の組み合わせのみで自立する橋です。

長いスパンを架け渡すには通常、石造アーチで積み上げたり、大型の横架材を渡したり、吊り材を張ったり、接合材を使ってトラスのように組み上げていくなどの方法が採用されますが、紹介する組み立て橋は、主材2本、横材1本の計3本を1ユニットとし、これを人力で増やして組み上げ、橋を架け渡そうとするものです。

主材が横材を介して相持ちとなり、これが連続して増えていくイメージです。

材料、原理が非常に単純ゆえ、簡便で使い方次第で応用範囲の広いアイデアです。

500年前に考案された構法が10m以上のスパンに架け渡され、実際の自動車を裁可した実験*も行われています。

  http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00897/2018/14-0254.pdf

 

原発の安全性はだれが確認するもの?  2022年6月17日  

東電福島第一原発事故で避難した人々が国と東電に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は2022年6月17日、国の責任を認めない判断を下しました。

裁判官4名のうち3名は国の責任はなし、ひとりの裁判官のみが「国の規制権限は原発事故が万が一にも起こらないようにするために行使されるべきもので、信頼性が担保された長期評価を元に事故は予見でき、浸水対策も講じさせれば事故は防げた」と国の責任を認めたそうです。

原発事故の重大性を考えれば、ひとりの裁判官の判断があまりにも当然のように聞こえますが、最高裁判所としての結論は、そうでない方に振られました。

日本のエネルギー政策やSDGsの観点から、“安全の確認された原発”から再稼働を許す、という声が聞こえてくる昨今ですが、誰が原発の安全を確認するのでしょうか。最後の安全は国が確認するものと、当然のように考えていた人にとって、今般の最高裁の判断は最後の拠り所を失ったように捉えられるのではないでしょうか。

 

日本はいつも地震戦時下  2022年4月16日 ー熊本地震から6年ー 

2022年2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。ロシアがまさかウクライナに本当に軍事進攻するとは、多くの人が思わなかったのではないでしょうか。ウクライナは国の東部を中心に、首都キーウをはじめ主要な都市で爆撃を受けました。

キーウに住み長年日本で暮らし地震を経験したこともあるウクライナ人の一人が、TVで次のように話しているのを耳にしました。

「キーウでは毎日のように空襲警報が発せられ、そのたびに地下室など安全な所に身を潜め空襲に構える。これは日本で地震が来ると言われ、それを迎える時の心境と同じだ。違いは、地震は神様がつくったもの、戦争は人間がつくったもの。」

地震は人間の力で起こるのを避けられませんが、戦争は人間の知恵で避けられるはずのものであるだけに、今般のウクライナ侵攻はとても残念です。ウクライナの人が口にしたことを翻って考えると、日本はすでに空襲警報が発せられ地震という空襲を迎えうつ、いつも地震戦時下にある国ということができそうです。

 

次の南海トラフ巨大地震は2038年頃  2022年3月11日

2011年3月11日東北地方太平洋沖を震源とするマグニチュード9.0の大地震が起きてから11年経ちました。震災の傷跡は、福島原発事故の後始末をはじめ、未だ癒えていないと言って良いでしょう。

東北地方太平洋沖地震が起こる前から、将来必ず起きるであろう海洋型の大地震として、南海トラフの巨大地震が挙げられていますが、幸いにも未だ起きていません。

本年1月13日、政府の地震調査委員会は南海トラフで今後40年以内にマグニチュード8~9クラスの地震が発生する確率を、前年の「80~90%」から「90%程度」に引き上げました。

いったい、それはいつ頃か?

尾池和夫氏(京都大学名誉教授)は著書の中で、地震の周期性に関する考察などをもとに、「次の南海トラフの巨大地震は2038年頃起こる」と記しています。

この地震が起きると、死者は約32万人、揺れや火災、津波などで238万棟余りの建物が全壊したり焼失したりすると推計されています。また、経済的な被害は国家予算の2倍以上にあたる総額220兆3,000億円に上るとされています。世界にも影響を及ぼす経済の混乱が、数年数十年と長期化すると、さらに経済被害は増加していくことが予想されます。これは、東日本大震災をはるかに超える、まさに国難級の大災害となります。

必ず起こる巨大地震を止めることはできませんが、残された僅かな日々、日本の将来を担う世代のためにも、少しでも早くあらゆる準備を進め、国難が現実のものとならぬよう祈るばかりです。

【追記】3月11日を「防災教育と災害伝承の日」とすることが提唱されています。

防災教育普及協会ホームぺージ:https://www.bousai-edu.jp/info/saigai-denshou/

内の登録フォームより登録できますのでご紹介まで。

 

分かっていること/分からないこと ートンガ海底の大噴火ー 2022年1月24日 

2022年1月15日午後、トンガ諸島付近の海底火山が大噴火しました。気象庁は同日午後7時過ぎ、トンガに近い洋上観測点で潮位変化が小さいことから日本での被害の心配はないと発表しました。しかし、深夜に奄美大島で1.2mの潮位変化を観測後、急きょ津波警報や注意報を出しました。

この理由を翌日午前2時の記者会見で、「気圧などの観測データから、地震に伴う津波ではないことが分かったものの、私たちがこれまで経験してこなかったような潮位の変化が表れ、その現象が何か分からないまま、防災上の観点から通常の津波警報の仕組みを使って防災対応を呼びかけたもの」と説明しています。

これに対し、「学問的な良心に忠実でありすぎることは、時に無用の混乱をもたらすこともある」とコメントした一部報道を目にしました。

自然現象には解明されて分かっていることと、分からないことがあります。特に、分からないことがあるということを知るのは、自然現象を解明する上でも、防災対策を進める上でも非常に大切なことです。

気象庁には、今回の現象の解明を望むことはもちろんですが、現状考えられる対策を速やかにリードするとともに、何が分からないことかを社会に示すことの重要性も疎かにしないで欲しいと思います。これが防災の真の啓蒙を進める一助になることを期待します。

 

地震とナマズの結びつき

  2021年11月10日

京都伏見区で伏見城の遺構と見られる石垣の基礎が発見されたことが市埋蔵文化財研究所から発表されました。

当時の石垣は一般的に地面を掘り込まず石垣石を積んでいましたが、伏見城の石垣は地面を掘り込んだ溝に大きな根石を並べて据え、その上に石垣を築く例を見ない堅固な構造だったそうです。

伏見城工事中の1593年、豊臣秀吉は重臣の前田玄以に「ふしミのふしん(普請)なまつ(ナマズ)大事にて候」などと地震対策を指示する書状を送り、地震とナマズを関連付けた最古の史料といわれています。伏見城を巡っては、築城わずか前の1586年「天正地震」(M7.8)と呼ばれる大地震があり、中部地方を中心に大きな被害を生じました。ナマズが地震を起こすイメージは、この頃の近畿地方で確立し、やがて江戸に浸透していったのではないかと考えられています。

ちなみに、江戸時代末期1855年に起きた「安政江戸地震」(M7.0~7.1)の際には、「鯰絵」と呼ばれる浮世絵が市中に出回っており、「地震とナマズ」がしっかりと結び付けられています。

 

東京タワーの足元のひみつ 2021年9月23日

昭和33年に完成した東京タワーは、建設当時にはパリのエッフェル塔を抜いて世界一の高さ333mを誇る鉄塔として話題を集めました。設計は数々のタワーの建設を手掛けた内藤多仲博士の指導によるものです。両者の形は似ていますが、構造的な合理性と経済性が追及され、エッフェル塔に比べ半分程度の鉄骨の量で造られました。

東京タワーにはその足元にもうひとつの秘密があります。それは図の赤線で示すようにタワーの四つの足元を対角につなぐ”つなぎ梁”が設けられていることです。人が足を開いて立つとき、足がすべると両足が外側に開いてころんでしまします。東京タワーも高く安定して建つように、四つの足を開いたような形をしており、相互の足は外側に開く力が働き、黙っていると倒れてしまいます。この力に抵抗するように東京タワーでは”つなぎ梁”が設けられました。それぞれの”つなぎ梁”には直径50mmの鉄筋が20本使用され、足が外側に開く力に抵抗しています。

東京タワーは足元の見えないところで、タワーが常に安定して建つよう構造的な工夫が隠されています。

ガウディの逆さ吊り実験 2021年8月14日 

スペイン、バルセロナにある有名な建築「サグラダ・ファミリア」は、スペインの奇才建築家アントニオ・ガウディの設計によるものです。19世紀末に着工、彼の死後も建設が続けられ完成は2026年頃とされています。

その独特な形は、一見自由に思うままに決められたようにも思われますが、彼は形を決める際「逆さ吊り実験」と呼ばれる手法を用いて力学的合理性を追求しました。上部から針金とキャンパス布を使って模型を造り、たくさんの錘をキャンパスに吊る下げ、そのキャンパスの描く形態を上下反転したものが、重力に対する自然で丈夫な構造形態だと考えました。

コロニア・グエル教会の設計の際、この実験手法を使って形を決めようとした写真が残されていますが、この教会は完成を見ることなく現存するのは地下聖堂のみとのことです。

地球上に建設される大きな構造物となる建築は、重力に安全に抵抗しなければなりません。そのための構造力学的合理性を、このような実験で追及したことは大変興味深いものです。

(写真左)サグラダ・ファミリア、(写真右)ガウディの逆さ吊り実験

 

ものづくりと勇気 2021年5月31日

人が必要に応じて物をつくる時、出来るだけ失敗を避けるには、それまで実績や経験が豊富で失敗の少ない方法を採ります。これにより経験に裏付けられた安全を担保します。これが最も容易な安全対策です。

もし、実績や経験が無いが物づくりをしなければならない時には、出来るだけ失敗しないような準備を整えます。その時点で考えられるあらゆる事態を想定し、出来るだけ失敗しないような対策を講じておきます。硬い言葉でいうと、予測可能性に不足が無く、結果回避可能性に不足が無いようにします。

この作業は言うは易く行うは難し。分からないことに立ち向かいこれを解決していくには、通常大変な困難と大変な苦労を伴います。また、知識、経験、探求力そして創造力が求められます。従って、その困難と苦労の前に、経験のない新しい物づくりを諦める人もいます。従来通り経験のある方法を採っておけば安心だからです。

建物を含め全ての物づくりに当たって、この困難と苦労に立ち向かうには、勇気が必要となる所以がここにあります。

 

天災と国防 2021年4月25日

4月25日から三度目の緊急事態宣言が4都府県に発出されました。新型コロナウィルスの国内の感染者はこれまで約58万人、死者は1万人を超えています。国民の日常生活、経済活動の制約は長期間に亘り計り知れないものがあります。感染症の蔓延による被害は、人間の歴史の中で幾度も経験していますが、それがいつ、どこで起こる?かは未だ予測はできません。

「天災は忘れたころにやってくる」という言葉で有名な寺田寅彦は、随筆「天災と国防」(昭和9年)のなかで、「地震、津波、台風など人の力で避けられない天災は、国家を脅かす敵と同様に、科学的国防の常備軍を設け、日常の研究と訓練によって非常時に備えるのが当然ではないか。」と、今でいえば防衛相ならぬ防災省のようなアイデアを提案しています。

新型コロナウィルスによるパンデミックは、ひとつの天災に相当するようなものといってもよく、国を挙げて備える体制を整えておくべきという寺田の指摘は、今も生きているのではないでしょうか。臨機応変な医療体制が全国的に効率良く整わなかったり、ワクチン接種の段取りに遅れがあれば、それは天災でなく人災になります。

古くて新しい寺田の指摘に耳を傾けたいと思います。

 

 

地震と原発の安全を考える-東日本大震災から10年

 2021年3月11日 

今からちょうど10年前、東電福島第一原発では大地震、大津波により全電源を喪失、原子炉が冷却機能を失い、最悪の事態であるメルトダウンを起こしました。周辺に広大な放射能被害を与え、未だ周辺住民4万人が帰宅できない状況が続いています。

原発の施設は、核燃料をもとに発電する機械設備と、それを収納する建物とで構成されます。それぞれの耐震設計は通常、前者を大手電機メーカーが、後者を大手建設会社などが協力して行います。

建物の耐震構造の歴史を考えてみると、日本では古くは1000年以上前、耐震構造の科学的知識がない時代に建立された五重塔が、度重なる大地震に耐え現在も存立し続けています。

日本の耐震技術の芽生えは、今から約100年前の関東大震災前後といわれます。その後も地震を経験する度に、耐震技術は前進・改良されてきました。このことは、日本の建物の耐震構造は、1000年以上に亘る地震の経験のうえに、100年ほどの知恵と工夫の蓄積をもとに成り立ち、現在に至っているといえましょう。

これに対し、原発の発電機械設備は、戦後米国で初めて開発・建設され、その後我国に導入、地震国に相応しいとされる耐震性を付与して設計、建設されてきました。機械設備そのものとしては、それなりの安全に対する経験を積み重ねてきたといえるかも知れませんが、その後50年間ほとんど大きな地震を経験することなく、10年前の東日本大震災で初めて大地震に遭遇したといって良いのかも知れません。

耐震技術は経験に因るところが多いといわれます。絶対の安全が求められる、すなわち過酷事故による余りに甚大な被害を考えると一切のリスクが許されない技術に、地震のように誰もが認めざるを得ない大きな不確定要素を含むことは、そもそも許されないのではないか。

そうであるならば、日本では原発は建設しないか、あるいは絶対にないとはいえない過酷事故に備えて建設地周辺数百kmの範囲に人の居住を許さず建設するか、そのどちらかの選択肢しかないのでは?などと今改めて考えを巡らします。

 

阪神淡路大震災から26年 2021年1月17日 

1995年1月17日 震度7の大地震が神戸市を中心とした近畿圏で大きな被害を出しました。

とりわけ印象に強く残ったのは、近代的な阪神高速道路の「まさか」の倒壊でした。

その丁度1年前の1994年1月17日、米国カリフォルニアで起きたノースリッジ地震では高速道路が崩壊し、日本の専門家は“日本では耐震基準が厳しいから米国のような被害は起こらない”と説明していました。

2011年3月11日 大津波を伴う東日本大震災が起き、東電福島第一原発では施設に震動による大きな被害を受けるとともに、運転を続けるための全電力を失い崩壊、東日本に甚大な被害を出し、その後遺症とも言うべき被害は現在も続いています。

この経験をもとに、国の原子力規制委員会は「世界最高レベルの厳しい基準」と誇る基準を策定し、これに基づいて現在各地にある原発の再稼働が検討されています。 

決して起こしてはならない原発事故。阪神淡路大震災での「まさか」が、原発で二度と起きないことを祈りたいです。

(写真左)阪神高速道路【阪神淡路大震災】、(写真右)東電福島第一原発【東日本大震災】

 

建築基法』に期待する 2020年12月25日 

終戦直後、建築を“造れ増やせ”の時代に定められ建築基準法は、その後長い間改定が重ねられてきました。しかし、世の中の変化に十分対応しきれない複雑化や硬直化、時代にそぐわない不足があることが指摘されています。

建築基本法」という新しい法律があります。

これは、新しい国つくりの根幹となる建築の基本の考え方を決めようとするもので、国会でも検討が始まっています。

建築基準法からは導き出すことのできない建築の基本的考え方、次世代に向けて安全で健康で文化的生活を向上させ、自然環境、社会環境の持続可能性に配慮した建築・街並みの実現を目指した法律です。そこでは、建築主や所有者、建築の専門家、地域住民、自治体に新しい役割が期待されています。

建築の安全性についていえば、これまで、建築基準法は最低基準を定めたものであり、決して安全を保証するものではないにもかかわらず、これに従えば国が安全を保証しているかのような錯覚を与え、つい経済性優先になる悪弊すら否めない状況がありました。 

「建築基本法」の制定により、例えば固有の建築についていえば、目指すべき安全の質・レベルは、建築主と建築の専門家がよく話し合い、固有の資産としてそして社会資産のひとつとして決めるものであるという、社会の共通認識を進めるインセンティブになるのではないかと期待しているところです。

 

今から800年前の京都の大地震…「方丈記」から 2020年11月1日  

『山は崩れ、河を埋め、海は傾いて、陸地を水浸しに。大地は裂け、水が噴き出し、岩は割れ裂けて、谷底にころげ入る。~ 都のほとりでは、在々所々、堂舎塔廟、ひとつとして無事なものはない。あるものはこわれ、あるものは倒れてしまった。~ 家の中にいれば、たちまちに押しつぶされそうになる。外に走り出せば、地面が割れて裂けてゆく。~ 恐ろしいことの中で、もっとも恐ろしいのは、ただただ地震なのだとはっきりわかったのでありました。』

これは、鎌倉のころ鴨長明により著された「方丈記」の一節です。話の地震は、元暦の大地震(1185年)で、京都を中心に大きな被害のあったいわゆる直下型地震(M≒7.4)だったようです。

記された地震のようすは、昨今のニュースで報じられる情景とほとんど変わらないことに驚きます。違うのは街の姿が変わったことでしょう。

現代の街は、建物の規模が圧倒的に大きくなり、密集化し、機能は高度化・複雑化して、もし同じ地震がいま京都で起きたら、地震の被害は当時と比べものにならないほど甚大になるだろうことは容易に想像がつきます。

 地震のようすを忠実に記した八百年前の古典から、地震から逃れられない国に生まれた私たちの宿命を感じます。

 

“地震観測データの利活用”に関して考えること 2020年10月5日 

地震とはどのような現象かを解き明かすため、地震計を使った観測記録を地震観測データと呼びます。観測の対象は、地面や地中の揺れ、建物や構造物の揺れなど様々です。

現在、地震観測データがどのように生かされているかを考えてみると、

地震前の活かし方としては、(前1)地震予知(これは現在の科学的見地からほぼ不能といわれています。)、(前2)直前検知(これは気象庁の緊急地震速報として実用化していますが、震源に近い所では効果が制約されるなど限定的に利用可能です。)、(前3)地震発生機構の解明(地震の姿を解き明かす息の長い研究です。)などです。

これに対し地震後の活かし方としては、(後1)直後のモニタリンング(建物などの損傷予測・推定、地域の被害推定など。)、(後2)建物などの地震時挙動の解明(これは地震の揺れと建物の揺れ・損傷・壊れ方との関係の科学的解明などが相当します。)、(後3)建物などの耐震性向上の検証(これは(後2)をもとに地震に強い建物を合理的、経済的に造る技術(設計法、施工法)の開発が相当します。)。

(後1)は地震の被害をいかに早く検知し、回復・復旧するかに役立たせることはできますが、大切なことは、これに頼っている限り建物の耐震化が進んでいる訳ではない、すなわち、建物が地震に強くなっている訳ではない、という点にあります。 

地震で建物や構造物に被害をださないことは、地震防災・減災に最も効果的な出発点であることは疑う余地がありません。地震観測データの利活用について考えるとき、この点を改めて思い起こしたいと思います。

 

▶ “免制震装置の実大動的試験施設を設立しよう“ シンポジウムに参加 2020年9月14日 

日本免震構造協会が主催し、多くの建設業・学協会が後援するもと、「国土強靱化に応える確かな土木建築の免震・制振構造の展開」―健全な技術発展と普及を支える実大動的試験施設を設立しよう―と題するシンポジウムが開催され、このビデオ配信を視聴しました。(主催者発表で1500人程度が視聴)

本ホームページ2018年10月16日コラムに記したように、建物や構造物の耐震性を確保するために大変重要な免制震装置の性能試験結果に偽装が発覚し、大きな社会問題になりました。

これは、装置の性能確認が出荷試験を担うメーカー任せであったことが大きな要因でもありました。また、近年大型化する装置の性能を十分確認できる実大動的試験装置が現在ないことも課題として指摘されています。

これらを解決するために日本学術会議では、(1)第三者による抜き取り検査の実現、(2)大型製品の実大試験施設の導入、(3)共有の大型試験設備を持つ検査機関の設置、を提言しています。(2020年1月15日コラム参照)

今後の大型試験装置に求められる性能は、海外を見廻しても、鉛直荷重~10,000ton、水平(荷重~1,000ton、速度~200cm/s、変位~150cm)程度となっているようです。これはとても一民間企業や大学では実現できるものではありません。 

首都直下地震や南海トラフ巨大地震が避けられないなか、高層建物や大型構造物の安全性を担保するために免制震装置の必要性・重要性は益々高まっています。国を挙げて官・民・学が協力しこの施設が実現することを、過去にこの開発に携わった者のひとりとして強く期待しています。

 

緊急地震速報の誤報は、「空振り」ならぬ「素振り」でフォームの欠点を把握 2020年8月1日

7月30日午前9時半過ぎ、関東・伊豆諸島・東海・東北・甲信・北陸地方に対し緊急地震速報が発表されました。しかし、実際には震度1以上の揺れは観測されませんでした。この速報により都営大江戸線は1時間半程度停止し、5万人の足に影響が出たそうです。

誤報の原因は、緊急地震速報処理において本来の震源とは異なった推定をしたため、予測震度が過大になったと気象庁は説明しました。

緊急地震速報で予測した震源は、房総半島南方沖、深さ50㎞、マグニチュード7.3、最大震度5強でした。これに対し、実際の震源は、ずっと遠方の伊豆諸島と小笠原群島の間にある鳥島近海、深さ60㎞、マグニチュード5.8、ですから実際には震度1以上は観測しなかったそうです。

震源の推定を誤った理由として、伊豆小笠原諸島海域では地震計の配置が少なく、震源を推定するプロセスで誤差が生じやすい環境にあったことが考えられます。そして、誤った震源(位置、マグニチュード)をもとに各地の震度を予測したため過大になったようです。緊急地震速報の技術的限界が見える出来事でもありました。

緊急地震速報の配信が始まった10年以上前には、速報の精度や効果について厳しい評価を多く聞きましたが、今回の誤報においては、世間の評価は比較的好意的なものが多かったようです。これは、一般に速報に慣れると共に理解が進んだものと考えられます。

初期の緊急地震速報(当初は“地震の直前検知”とか“ナウキャスト地震情報”と呼ばれ研究されていました)の建物への導入・実用化に携った者のひとりとして隔世の感を持ちます。

 

▶ “避難は「空振り」でなく「素振り」” 2020年7月13日   

本年7月上旬、九州や中部地方を中心に西日本に大きな被害を出した豪雨は、命にかかわる重大な被害の発生が気象庁から予報されていました。また該当する各地では、避難の各段階で避難情報が出されていたようですが、十分な対応がなされず犠牲になった方々がいらっしゃいます。

これまでの災害後の調査では、避難情報が出されていたにも拘らず非難しなかった理由のひとつに「以前、避難情報が出て避難したが、何も起こらなかった。(空振り)」があるそうです。これに対して、「“空振り”と考えるのではなく、本番で適時打を打つ、命を守るための“素振り”練習と考えて」。と京都大防災研究所の矢守克也教授(防災心理学)が指摘しています。これは、蓋し至言だと思います。

気象予報は、研究や経験を重ね日々その精度を増し、避難情報もより適格なものになってきているとは思いますが、完ぺきということはありません。それを前提に、防災行動の基本として“素振り”を認めることが、災害列島を生きる作法になると良いのではないかと思っています。

 

“新型コロナウィルス感染症と災害について考える” 2020年6月12日

内閣府政策統括官(防災担当)が運営するTEAM防災ジャパンの標題オンライン会議に参加しました。内閣府、大学、行政、自治体、ボランティア、他、標題に関心を持つ人々が任意に参加したオンライン会議です(https://bosaijapan.jp/action/)。感染症禍中にもし災害が起きたら、その対応は今までの災害対応とは異なる準備や配慮が必要になろうことは容易に想像され、まさにコロナ禍最中の今、逼迫したテーマに参加者の関心は高いことを感じました。

会議は時節柄オンラインで行われ、標題に関わるビビッドな話題、問題点、具体例などが紹介され、適時な情報交換の切っ掛け作りができたものと考えられます。

前回のコラムで“袖触れ合うも多生の縁”に触れましたが、オンラインコミュニケーションは“袖触れ合わずとも縁の結びはある”ことを示していました。縁の機会というものが変りつつあります。

面識のない様々な立場の人がオンラインで一堂に会し、生きた情報を直接交換できることは、即時性と広域情報共有が大切な防災対策に非常に役立つものと考えられます。もちろん情報の交通整理は必要でしょうが、準備さえ適切にしておけば今後の危機管理の新たな有用なツールになるであろうことを強く感じました。

 

“袖触れ合うも多生の縁” 2020年5月25日

先月7日政府によりに発出された緊急事態宣言が5月25日解除されました。日本人は古より縁を大切にしてきました。その縁はまさに“袖触れ合う”ことに象徴され、人と人との距離は密なものでした。

今般の新型コロナウィルス禍において自粛を要請された三密のひとつである「密接」に対しては、適度なソーシャルディスタンスが求められ“袖触れ合う”ことが難しくなってきました。これは古き良き日本文化の変容を余儀なくされるもので、大袈裟に言えば人と人との関わり合い方、人間関係にまで影響することにもならないかと思案します。

現在、言の葉に上っている「新しい生活様式」をつくって行く必要を感じるとともに、将来否定できない新たなウィルス禍での防災活動において“袖触れ合う”にどのように備えるか、考えておくこともこれからの課題になろうかと思います。 

 

"STAY HOME"は自宅で被災! 2020年5月6日

関東地方に緊急地震速報が5月4日、6日と連続して発報され、ドキッとした人も多かったのではないかと思います。両地震とも震源は千葉県北部、マグニチュードは5程度、観測最大震度は4でした。

新型コロナウィルスによる緊急事態宣言が発せられる中、いつ起きてもおかしくはないといわれる首都直下地震が今もし起きたら?・・・外出の自粛が求められ多くの人が自宅に滞在しています。帰宅困難者問題は減るでしょうが、自宅で地震に遭遇する人は増えるでしょう。

家具・什器などの転倒・落下などで自宅でケガをする人がいつもに比べ多くなることでしょう。

また、建物の内外装材が壊れたり運悪く建物自体が重大な損傷をすると、いつにも増して自宅で命の危険に遭う人が増える恐れがあります。

家族が揃ったいま、もし家具・什器などの転倒・落下防止対策が日頃進んでいなかった家があれば、その対策を実際に進める良いチャンスともいえます。また、非常用持出し品の中身を改め、内容の更新、充実を図る機会にすることもできます。そして、何より大事なのは3密が予想される避難所へ行かずに済むように、建物が地震で壊れず使い続けられるよう強くしておくこと。

わが国では江戸の末、安政東南海地震(1954年)その翌年安政江戸地震が起き、その数年後にコレラが大流行して江戸だけでも約3万人の死者がでた歴史があります。これが幕末維新の一因になったともいわれています。

災禍の連続や重複など考えたくはありませんが、外出の自粛要請が続く中、今の禍を次の災害を減らすチャンスにできれば、せめてもの救いになるのではなどと考えています。

 

「#うちで過ごそう」新型コロナウィルス感染拡大防止の準備とは 2020年4月1日

昨年暮れ、中国武漢で見つけられた新型コロナウィルスは、その後世界的に感染拡大し、東京では感染爆発の一歩手前にあるといわれています。今回のウィルスは、これを保有する症状ない人から人へと感染することが拡大の防止を難しくしているようで、行政は兎にも角にも外出は控えて感染拡大の防止を強く要請しています。 

一人一人の行動の成果は二週間程度後に現れ、準備の決め手は『行動を起こさない』こと。活動を控え行動を起こさないで過ごすことが、感染拡大防止のための最も確実な準備とされ、ウィルス災禍を鎮める大切な鍵となっているようです。現時点で治療薬がないことも原因のひとつとなっており、自然の前に現代医学の限界も感じます。 

これに対し、自然災害である大地震の災禍の大小は、事前にどれだけ防災準備の『行動を起こすか』にかかっているといえます。建物や設備の地震対策をすればするほど、助け合いの準備をすればするほど、一般的に地震の被害は減らすことができます。 

こういっては語弊を生むかもしれませんが、自然の災禍を考える場合、ウィルス災禍に比べて地震災禍は扱い易い、考えようによっては対策の立てやすいといえるかもしれません。

ウィルスによる自然の災禍を反面の教訓として、地震に対する準備の行動がさらに促されることを願っています。

 

「防災リジリエンス」 2020年2月13日

東日本大震災のあと“リジリエンス”という言葉を聞くようになりました。これは、例えば、地震防災においては、建物や社会が単に地震に強いだけでなく、早い復旧力を持つことが大切であるとする考え方です。

建物の構造で考えると、一般的に耐震性能は構造の強度(頑丈さ)、靭性(ねばり強さ)、復元力(したたかさ)で決まるとされ、これらの性能が小さいと損傷が大きくなり、復旧に時間がかかることになります。

“リジリエンス”の考え方からすれば、建物の構造にはこれらの性能をできるだけ高め、復旧力が高まるような構造計画、構造設計が求められていると言えます。

ところで、建築基準法では、建物が持つべき最低の安全性能として、極まれに起こる大地震に対して、人の命を守る観点から建物の倒壊・崩壊を防ぐことを目標としており、大地震で壊れたら諦める、使えなくなっても仕方ないとしています。

これは、”リジリエンス”における復旧力の視点を持ち合わせていないと言えます。高度化・複雑化し、脆弱性を増した現代社会において、復旧力の視点を持ち合わせない建築基準法の考え方は時代にそぐわないものになっていると言わざるを得ません。

建築基準法を満たしたから安心するのではなく、個々の建物が大地震に対しても少しでも損傷の少ないように造ってゆくことこそ、災害に対してリジリエンスな社会を形作る第一歩と言えるのではないでしょうか。

 

熊本県八代市防災フェスタ2019での講演 2019年12月14日

防災教育普及協会からの紹介で熊本県八代市主催の「防災フェスタ2019」において、「地震に備えた住居のあり方」と題する講演を八代市公民館で行いました。八代市では三年半前の熊本地震のあと、近くを通る日奈久断層も動くのではないかと心配され、市民の地震に対する関心は高いようです。講演では、現在の建築基準法の考え方の基礎にある“命を守るために建物を倒壊・崩壊させない”だけでなく、“財産としての建物を守る”ために耐震等級や耐震性能グレードの考え方を取り入れ、大地震でも僅かな損傷で済み修復すれば使い続けられる少しでも地震に強い建物にするための要点を示し、地震国日本のこれからの住居のあり方をお話ししました。

なお、同フェスタでは、災害救援ボランティア推進委員会により「家具転倒移動・ガラス飛散対策」の実演指導会も催されました。

 

「パラレル東京」NHK-TV 2019年12月10日

NHKテレビでは12月1日から8日にわたり、「体感 首都直下地震ウィーク」の中で、切迫する首都直下地震を主題に、その時どういうことが起きるか、被害を防ぐにはどのようなことに心掛け、どのような準備をすればよいか等について、連日特集を組んで放映しました。

地震が12月1日に発生したと仮定、連日その日に予想される被災状況を、その当日に切迫したドラマ「パラレル東京」で示しました。また、対象とする地域、年齢層、人、他をさまざま設定、災害の特徴を分類するとともに時間経過で整理するなど、いわゆる「虫の目」から「鳥の目」の視点で番組総計14時間余り、防災の準備を具体的に示しました。NHKのこの取り組みに敬意を表したいと思います。

この中では、避難やその後の生き残りに関する話題がほとんどでしたが、「そもそも避難するにも、避難所で生活するにも、復旧に携るにも、けがをせず命がなければできない。そのためには『家具類の転倒防止対策や、家の耐震化がスタート台』」との名古屋大学・福和伸夫教授の指摘は、当たり前のようですが忘れてはいけない非常に大事な点だと思います。この特集で、建物の安全をより確かなものにする耐震化の話題がほとんどなかったことが唯一残念な点でした。 

 

防災宿泊体験学習 2019年10月12日

文京区の小中学校では、東日本大震災の時の教訓を生かそうと、在校中災害が発生して帰宅できなかったり、避難生活になった場合を想定し、学校に避難宿泊を体験する防災宿泊体験学習を行っています。

この活動の一環として、去る10月11日文京区立駕籠町小学校の4年生児童を対象に、講師は『地震と建物のなぜ』と題した特別授業を行いました。当日は、図らずも台風19号が上陸、翌日は首都圏に最も接近する時期と重なったため、宿泊体験は急遽中止し、夕方特別授業を終えたのち直ちに児童達は迎えに来た保護者に引き取られ帰宅しました。

台風はその動きがおおよそ予測できるため対応に備えることができますが、地震は台風のようにその生起を予測することはほぼできません。地震災害に備えるのは難しい現実があります。しかしながら、台風にしろ地震にしろ自然の災害は人の予想を裏切って起こるのが常です。

今回の台風による突然の防災宿泊体験の中止が、児童達に災害の準備の重要性を身をもって体験させ、一生の記憶に残すことができたら、反面の防災体験学習として功を奏してくれたのではないか思っています。

 

首都直下地震 未治療死亡6500人超 2019年9月8日 

首都直下地震で治療を受けられずに死亡する人が6500人を超える可能性があることを、日本医科大学と防災科学技術研究所の研究グループが報告しました。

これによると、ケガの症状が比較的重い状態で都内の医療機関に搬送されたり訪れたりする被災者は21,000人あまり、このうち15,000人程度の人は治療を受けられるものの、医療スタッフの不足などにより、およそ3人に1人にあたる6,500人あまりが、地震発生から8日間のあいだに治療を受けられないまま死亡する可能性があるということです。

他方、内閣府による首都直下地震の被害想定では、もし建物の耐震化が全て達成されれば、建物倒壊による死者や建物全壊数を約1/7に減らすことができると推計されています。

建物の耐震化により、もし医療機関に搬送されたり訪れたりする被災者が1/7の3,000人に減らすことがきるとしたら、すべての被災者が治療を受けられ、未治療による犠牲者はなくなります。

この仮定がどれだけ適当かは定かではありませんが、耐震化が首都直下地震の犠牲者をより減らせることに間違いはありません。あらためて、建物の耐震化が地震の被害を減らす原点であることを認識したいと思います。

 

「命の危険」 2019年7月3日 

気象庁は7月2日、梅雨前線による大雨により、九州を中心とした西日本で記録的な大雨の見通しを発表しました。そして、これによる土砂災害に厳重注意するとともに、浸水や河川の増水、氾濫に厳重警戒するよう発表しました。同時に、各地で発表される避難勧告等に従って、“自分の命、大切な命”を守るために早目の避難、安全確保を、という異例の呼びかけをしました。これは、警告を発する側の防災・減災力の限界を意味したもので、”自分の命を守るのは自分自身”、という災害に向き合う際の根本的な理を改めて伝えたものと理解できるのではないでしょうか。

一方で、近く予想される首都直下地震では2万人以上、南海トラフ巨大地震では32万を超える死者が予想されている現実があります。いつくるか分からないとはいえ、“自分の命、大切な命”を守るための大地震に対する備えは、切迫する明日の危険に対する備えと同じように、一人一人が早め早めにしておくことを忘れないよう心掛けたいものです。

 

山形県沖で最大震度6強の地震~大阪府北部地震からちょうど一年 2019年6月21日 

2019年6月18日22時22分、山形県沖を震源とするマグニチュード6.7の地震がありました。この地震により新潟県村上市で最大震度6強を記録、津波注意報が発令され間もなく解除されました。

この日は、ちょうど一年前に大阪府北部を震源としたマグニチュード6.1、最大震度6弱の地震が起こった日です。ブロック塀の倒壊で通学中の女児が命を落としています。

マグニチュード6クラスの地震は、日本中いつどこで起きても不思議ではないということを改めて示した出来事でした。

新潟県や山形県では、被害を受けた建物の「応急危険度判定」が行われ、528棟の調査のうち63棟が最も危険度が高い「危険」と判定されました。また、立ち入りに注意が必要な「要注意」の建物は115棟あり、ほとんどが屋根の瓦のずれや落下のおそれによるものだということです。

「危険」は、建物に立ち入ることが危険と判断されるほど被害が大きかったものです。地震による建物の損傷は、耐震診断や耐震改修によりかなりの程度予防できるものです。地震を受け「危険」と判断されないような準備を進めたいものです。

 

建築主の責任と役割 2019年5月13日 

日本建築学会シンポジウム「建築工事における建築主の責任と役割」に参加しました。

建築工事において、設計者や施工者は専門の知識・経験を十分持つ専門家であるのに対し、一般的に建築主はその持ち合わせの少ない非専門家であるため、設計や施工の過程において両者の考えにすれ違いが生ずると、建築主の意向が過剰に主張されたり、専門家の責任が必要以上に問われ、トラブルのもととなることが最近増えてきました。これは専門家である医師と非専門家である患者との間に生ずる、ここ十年来富に増えてきた医療訴訟の様相に似ているともいわれます。

このようなトラブルを少なくするためには、専門家は建築主に十分丁寧な説明をして理解を得、その記録を残しつつ事を進める役割が求められる一方、建築主は専門家の説明を聞いて理解し、自ら判断する役割と責任がある、ということでしょう。「建築主は専門家に任せておけば安全で思うような建築ができあがります…、専門家は自分に任せてくれれば良い建築ができあがります…」、という両者の関係世界は成り立たない時世になっていることを示しているようです。

 

熊本地震から3年 2019年4月16日  

震災関連死を含めて273人が犠牲になった熊本地震から今日で3年を経過しました。いまだに1万6519人の被災者が仮設住宅で暮らしているといいます。九州は地震が少ないといわれ、耐震設計をする際の地震の大きさを決める地震地域係数も小さな九州で、このとき震度7が初めて二度生じました。本震か、余震かの判断が難しくなったため、これ以降、気象庁では余震という用語をあまり使わなくなりました。木造住宅の全壊数は500棟を越え、2000年の改訂基準を満たさない新耐震住宅にも被害が生じました。これにより、木造住宅では特に柱頭柱脚の接合部に十分注意を払わなければならないことを改めて認識しました。東日本大震災のあまりにも大きな災害につい目を奪われがちですが、過去の地震災害から学んだ個々の知識を改めて心に留める熊本地震3年目です。

 

免・制震データ改ざん問題の解決策  2019年1月15日  

免・制震データ改ざん問題に関する日本学術会議公開シンポジウムに参加しました。

建築用制震オイルダンパー(O.D.)の嚆矢となる開発に携わった者として、データ改ざんの手口は巧妙で、立合い検査に居合わせてもその偽装は見抜けない、との印象を持ちました。免震も制震も装置メーカーを信用しなければ開発は成り立ちません。それは開発当初業界の共通認識でありモラルでした。その後にこの前提が崩れてしまったことに、私を含め初期の開発に携わった参加者の多くは失望を隠せませんでした。

同様のことは、建築に限らず屈指の自動車メーカーでも起こっています。これまで日本の良き伝統でもあった、ものづくりに拘る技術者の誇り、倫理が失われたとは思いたくありませんが、悲しいかな認めざるを得ない時代になってしまったようです。

背景には、装置のコスト、納期に対する厳しいビジネス環境とか、他の工業製品と異なり地震が来ないと装置性能の不備が顕在化しない建築特有の特殊事情、等々あったことが指摘されていますが、不正を許せば企業の信頼を失墜するのは自明のことです。

今後こうした問題を起こさぬために、シンポジウムでは次の提案がありました。(1)第三者による抜き取り検査の実現、(2)大型製品の実大試験施設の導入、(3)共有の大型試験設備を持つ検査機関の設置。

 

ブロック塀の耐震診断を進めましょう 2018年12月12日 

大地震時の緊急輸送道路等に隣接するブロック塀等に対する耐震診断の義務付けが、平成31年1月1日から施行されることになりました。

昭和53年宮城県沖地震ではブロック塀等の倒壊による圧死が18人にのぼり、これを機に初めてブロック塀の安全について注意深い配慮がされるようになりました。しかし、その後の昭和62年千葉県東方沖地震、平成17年福岡県西方沖地震、そして今年6月の大阪府北部地震でも小学生の尊い命が失われ、被害がなくなりません。

ブロック塀は便利なため、身の回りで目に触れる機会も多いですが、内部の鉄筋の入り方や基礎の状況などが塀の危険性を左右するため、安全かどうかを外見のみから判断するのが難しいものです。放置されたまま、一旦転倒でもすると重大な被害になる可能性があります。

人通りの多い所のブロック塀で、古く、ひび割れ、鉄筋の錆汁、ぐらつき等があって心配なものがあったら、一度専門家に診てもらい、塀が一体になっているか、倒れやすくないか等、診てもらうことを推奨します。

参考:ブロック塀等の点検のチェックポイント

 

KYBオイルダンパー(続) 2018年10月29日 

国土交通省より、KYB及びカヤバシステムマシナリー(同社)の製造したオイルダンパー(O.D.)の導入に関わった建築物の設計者等に対し、同社から構造安全性検証作業協力の依頼があった場合は、これに協力するよう事務連絡がありました。これにより、同社が製造したO.D.のうち、国の基準や設計仕様を満たさないO.D.については判明している試験データに基づいて、又データ書き換えが不明なものについては予想される実際のデータに基づいて、建築物の構造安全性の検証がやり直されることになります。

O.D.を使用した建物を所有、利用している方は、建物売主や設計、施工者等から、構造安全性に関する説明や上述の構造安全性の検証結果の説明を受けることができるようになります。関心や不安のある方は、これら関係者に問合せることをお奨めします。

 

「世界の都市総合力ランキング2018」…東京は世界の中で高い魅力のある最も危険な都市?

  2018年10月18日 

(一財)森記念財団都市戦略研究所から「世界の都市総合力ランキング2018」が発表されました。これは国際的な都市間競争において、人や企業を惹きつけるための総合力をランク付けしたもので、1位ロンドン、2位ニューヨーク、3位東京、これにパリが続いています。

一方、スイスの再保険会社スイス・リーは2013年、「自然災害で最も危険な都市ランキング」を発表し、1位東京・横浜、2位マニラ、3位広州・香港・マカオ、としています。

首都圏では、30年以内の発生確率が約70%といわれている首都直下地震の予想被害は、死者2万7千人、経済被害は間接被害も合わせると国家予算にも匹敵する100兆円に届くとも見積もられています。

都市総合力ランキングと危険な都市ランキングの上位に、2020年にオリンピックを迎える東京がともに入っていることに、とても違和感を感ずるのは私ひとりではないのではないでしょうか。

東京を考えてみると、総合力ランキングは健常者と余命半年を宣告された癌患者が、見た目の力比べをしているようなもの。ほぼ間違いなくやって来るであろう大地震を眼中から外さないよう日々の生活を続けたいものです。

 

KYBオイルダンパー 2018年10月16日 

オイルダンパー(O.D.)メーカー“KYB”が、これまで1000棟近い建物に納入した免震、制震O.D.の性能を偽装していたことが発表されました。

総合建設会社において、オイルダンパーを初めて建物に利用する研究開発に携わった者のひとりとして極めて残念な出来事です。O.D.は建物の安全性を向上できる優れた技術手段だからです。

オイルダンパーを使用した建物の安全性チェックは、通常はその建物を設計した建設会社や設計事務所において実施できる作業です。KYBは納入したO.D.が規定値を満たしていなかった場合、実際の正確な出荷試験データーを設計者に提示し、建物の安全性チェックの作業を迅速に進める努めが求められます。

KYBはO.D.のリプレイスを進めなければならないことは勿論ですが、建物の安全性チェックを逸早く完了し、建物利用者そして社会を安心させて欲しいものです。そして、免震・制震技術の要の装置のひとつであるO.D.の信頼を回復し、所期の安全な建物の実現に貢献することを心から願っています。

 

今、防災教育に足りないものは何か? 2018年10月14日 

ぼうさいこくたい2018 防災教育交流フォーラム「今、防災教育に足りないものは何か?」(主催:(一社)防災教育普及協会)が東京ビッグサイトにおいて開催されこれに参加しました。

著名な講演者らから、次のような不足点が指摘されました。

・ 学校教育において、現場の先生は教科の消化に追われ、防災教育に割く時間が不足。

・ そのため、学校では専任者や専門家に任せきりの傾向。

・ 防災の教科化が是非必要。

・ 学校、家庭、地域において、防災教育のすそ野を広げる。

・ 大人への教育が不足。生涯教育が大切。

・ 防災の基本知識(信号で言えば、赤・青・黄の意味)と基本行動の徹底。

・ 防災はそもそも非日常を扱う正解のない問題。また、人生は危機の連続。

  これはまさに、学習指導要領にある「生きる力」の核心でもある。

余禄:先日、近くの交差点で、救急車がサイレンを鳴らし交差点を通過しようとしていた時、歩行者信号の青が点滅し始めた横断歩道をあわてて渡ろうとしていた子供が救急車の前を横切り、救急車は速度を落としました。信号は青でも、「緊急車両が警報を発して通行していた時は、緊急車両が優先される」という非日常のルールも、応用問題として教えておく必要があることを感じました。》

 

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