建物は地震にどこまで安全か? ~専門家と一般の方との橋渡し~


防災教育普及協会のホームページに以下のレポート(教材・事例紹介)が掲載されました。(2019年3月7日)

「シニア建築士による地震防災教育」

”一般の人と専門家との橋渡し”

 

 建物の安全は、人の命に関わるとともに、大切な資産を守るためにも重要な問題であることに異議を唱える人はいません。

 しかしながら、その安全性の捉え方は、一般に専門性も高く馴染みも薄いため、一般の人と専門家との間で溝が生じやすく意思の疎通が難しいことが、専門家(例えば、日本建築構造技術者協会)の間で従前より指摘されています。

 この溝を少しでも埋めるため、長らく建築構造の仕事に従事してきた筆者は、小学生から一般の方までを対象に、個人で講演活動を続けています。主に地震に対する建物の安全に焦点をあて、地震のとき建物はどうなるか、建物の安全はどのように決められるか、どうしたら安全な建物ができるか、等々、“小学生には基本を分かりやすく、一般の方には身近な問題を分りやすく”をモットーに、ビデオや建物模型を併用して理解が進むよう配慮しています。

 これまで、公立小学校や地域の生涯学習会等に出向き、小学校では普段聞けない話に児童は興味深い目を向け地震に対する準備の意識を向上させ、一般の方では実際の建物の安全がどのように成り立っているか具体的な話を通して理解を深めることができた、との声を聞いています。

 地震防災・減災の原点になるといって過言ではない建物の安全に関し、子供から大人まで社会の理解が進み、より安全な建物の実現に少しでも貢献できることができればと願っています。活動に興味のある方は、ホームページ「地震と建物の安全を考える」https://www.eq-bldg.com/をご参照ください。

防災教育普及協会 正会員 高橋元一

文京区立小日向台町小学校
地震防災教育 文京区立小日向台町小学校


日本建築構造技術者協会(JSCA)の機関誌「Structure」NO.146 2018.4号に以下のコラムが掲載されました。

━━ シニア構造設計者による構造安全に関する啓発活動 ━━

 地震に対して安全な建物を社会に提供するために、設計者(専門家)とクライアント(一般人)の間には、建物の安全に対する理解や認識に溝があり、これを埋める努力が構造設計者に求められていることが、これまでJSCAにおいても継続的に訴えられている。 

 筆者は、この溝を少しでも埋めるための一助として、両者の橋渡し役を目指し、構造設計・研究に携わった一シニアとして細やかな活動を続けている。

これまでに、市民講座の機会を利用したり、小学校での地震防災に関わる特別授業に出向いたりして、大人から子供までそれぞれに相応しい内容を企画、講演している。

 前者に対しては、建築基準法は安全の最低基準であり望ましい耐震性能グレードを実現するものではないこと、建物の安全は設計者の話しを聞き最終的に建築主が決める(選択する)ものであること、そして、建物を強くすることが地震防災・減災の原点であること、等をできるだけ分かり易く説明している。また、後者に対しては、「地震と建物のなぜ」と題し、地震の起こり、建物の揺れ方、建物を強くする工夫、等々の基礎知識を、実験映像や児童が触れる建物模型を使い興味を持って聞けるよう配慮した授業を行っている。子供の頃から建物の安全に関心を持つことができれば社会全体の防災意識の向上に役立つものと考えている。

 筆者は、6年前に総合建設会社を定年リタイヤした。建物の安全に関する一般の理解を進めるのは地道で根気のいる啓発活動である。現役では実務を負い余裕も少なくこのような作業に費やす時間も儘ならぬこともあろう。団塊世代をはじめとするシニアの構造設計者、OBが増す昨今、これらの人が果たせる役割のひとつがこの辺にもあるのではないかと考えている。これはまた、構造設計者の社会的認知を高めることにも貢献するものと信じている。

高橋一級建築士事務所代表 高橋元一

千代田区生涯学習館
地震防災教育 千代田区生涯学習館
船橋市立三山東小学校
地震防災教育 船橋市立三山東小学校


TEAM防災ジャパン(内閣府)リレー寄稿*に投稿しました。

  *防災の現場で活動する者が情報発信し、相互コミュニケーション形成のツールとして利用する場

 

Q1. 防災に取り組み始めたきっかけは?

「地震に対する建物の安全」というテーマに、総合建設会社で長らく従事してきた建築構造の専門家のひとりとして、『建物を提供する側の専門家と、購入・使用する側の一般の人との間に、建物の安全に対する認識に大きな溝がある』ことを常々感じてきました。この溝を埋めるには、子供の頃から建物の安全に関心を寄せられるような啓発活動が効果的ではないかと考えるようになり、子供から大人までを対象に、建物の安全に関する地道な啓発活動を始めたことが広く防災に取り組み始めたきっかけです。


Q2.ご自身の活動の中で、一番のエピソード(うまくいったことや、いかなかったことも)という事例をひとつあげてください。

小中学校では消火・救急・避難訓練などの、いわゆる防災教育は一般的に行われていますが、建物の安全に関しては専門的な要素もあり、その知識に接する機会は少ないのが現状です。ある小学校で、映像や模型実験を使いこの話をできるだけ分かり易く子供たちに話をしたところ、彼らなりの興味が芽生え「建物の安全」に関心を寄せ始めたことを感じました。「建物は工夫によって地震に強くできる」ことを子供の頃から頭の隅に置けるようになれば、ゆくゆくは安全な建物、街、そして都市の実現を底支えする力に育っていくものと信じています。


Q3.防災活動は「つながり」が課題ですが、ご自身で感じる現状の課題についておしえてください。

防災の知恵は世代を継いで伝承していく(縦のつながり)ものです。地震後の被害を軽減するための準備・訓練を主とするいわゆる防災はもちろん大切ですが、先に述べたような観点からの学校教育現場でのつながりがまだまだ不足していると感じています。建物の安全を司る専門家と、学校教育現場のご担当が直接つながるチャンスが増えることがひとつの課題と考えています。


Q4.ご自身の活動の中で、繋がれるといいなぁ(繋がってよかった)と思われる(地域、企業、団体、個人など)についてご紹介ください。

縦のつながりの他に、専門家と一般の人との間にある理解・認識の溝を埋めていくには、横のつながり、後者の例で言えば、地域、サークル、職場、等々と直接つながる機会も増えるといいなぁと思います。また、建物を地震に強くすることが、地震防災・減災の全ての原点であることを広く知って頂きたいと考えています。


Q5.TEAM防災ジャパンサイトについて、期待されることについてメッセージをお願いいたします。

地震防災に関係する人には、「地震」に関わる人々、「建物」の建設・安全に関わる人々、そしていわゆる「防災」に関わる方々がいらっしゃり、災害軽減の効果をより高めるにはこれらの人々の相互理解なくして望めません。一見異なる分野の人々が、相互に情報交換、交流を進め、新たな知恵を出し合ってより安全な未来社会を築いてゆくため、TEAM防災ジャパンサイトがその場になることを期待しています。

以上