▌耐震性能グレード
それでは、建築基準法に則った一般的な建物より安全な、より地震に強い建物が欲しい場合はどうしたら良いのでしょうか?
ここでは、これを実現するための考え方のもととなる「性能設計」について紹介します。
これは、地震の程度に応じて、建物の損傷をどの程度に収めたいか、すなわち建物の「耐震性能グレード」を設定し、それを実現するように建物をつくる設計方法です。
上に述べた建築基準法に則った一般的な建物の耐震性能グレードを「基準級」とすれば、より耐震性能の高い建物を「上級」、さらに高い建物を「特級」と呼ぶことにします。これは、日本建築構造技術者協会(JSCA)での呼び方にならったものです。
これら3つの耐震性能グレードを、「地震の程度」と「損傷の程度」との関係で整理して表2に示します。
ここで、「地震の程度」を分かり易く表現するため、気象庁の【震度】との対応も示しています。
また、「損傷の程度」のイメージを分かり易くするため、鉄筋コンクリート(RC)造を例に表3(JSCA)に示します。
ここでは、「軽微な被害」「小破」「中破」「大破」の4種類の程度について表しています。
なお、倒壊・崩壊とは大破を超え人命を失う可能性が非常に高くなるものです。
耐震性能グレードを高くする具体的な設計方法については、専門性が高くなるのでここでは触れませんが、イメージとしては「地震に危ない建物」に記した要因をできるだけなくすようにすることに相当します。
建物の柱・梁・壁などの部材設計や、構造計画(建物の形状や柱・壁などの配置バランス)などに関し、様々な工夫を施して耐震性能グレードは高めることができます。
もちろん、耐震性能グレードを高めるために、多少の建設費の増加(数%からせいぜい10%程度)が必要な場合も生じます。
しかしながら、建物の建設費と地震による修復費の総費用であるライフサイクルコストとして考えると、建設費の多少の増加は決して無駄になるものではなく、むしろライフサイクルコストを低減させる効果のあることが知られています。図1にその関係を例示します。
建築基準法は、 「建築基準法は安全の最低基準」の項で説明したように、これに従っておけば絶対に大地震でも壊れないとか、大地震の後でも使い続けられるとかを、確実に期待することはできません。
建物や都市の機能が高度化し複雑化した現代の世の中では、大地震でこれまで通り人命さえ守れれば可とする従来の考え方では不十分です。大地震の後でも、人命を守ることはもちろんのこと、建物が継続して使用でき、資産としての建物が維持できるように備えておくことがとても大切になります。
それを実現するための考え方として、性能設計はこれからの時代に即したものになるものと考えられます。
性能設計を実効性のあるものにするためには、建築主は建物には耐震性能グレードがあるということを認識し、構造設計者と良くコミュニケーションをとって建物の耐震性能を理解、選択して設計・施工することが必要となります。
また、建物やマンションを購入する際には、売主や物件の設計者とりわけ構造設計者の説明を聞き、耐震性能がどの程度のものであるかを知っておくことも、これからの時代に求められています。
▌耐震等級
建物の耐震性の程度を表す方法として、上に説明した耐震性能グレードとは別に「耐震等級」という考え方があります。
これは、2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(略して品確法)」によって定められた住宅の性能表示のうち、建物がどの程度の地震に耐えられるかを示す等級で、表4に示すように耐震等級1~3までの3つに分かれています。
対象は、戸建て・共同住宅となっていますが、これまでは戸建てに対して適用されることが多いものです。
住宅の構造躯体が、「損傷しない」あるいは「倒壊・崩壊しない」という2つの目標が達成できるような地震の程度に応じて耐震等級を定めるものです。
すなわち、稀に生じる地震に対しては損傷せず、極めてまれに生じる地震に対しては倒壊・崩壊しない住宅を耐震等級1、稀に生じる地震の1.25倍の地震に対しては損傷せず、極めてまれに生じる地震の1.25倍の地震に対しては倒壊・崩壊しない住宅を耐震等級2、そして、稀に生じる地震の1.5倍の地震に対しては損傷せず、極めてまれに生じる地震の1.5倍の地震に対しては倒壊・崩壊しない住宅を耐震等級3とするものです。
耐震等級を上の耐震性能グレードと比較して考えると、耐震性能グレードは各グレードにおいて想定する地震の程度は共通に設定し、これに対する被害の程度をコントロールしてグレード相互の耐震性を評価するのに対し、耐震等級は同じ被害を生ずる地震の程度の大きさによって等級相互の耐震性を評価するものです。
耐震等級においては、地震の程度の実際の意味がやや曖昧になりますが、耐震性を評価する手法として簡便になっているのが特徴となっています。
2016年の熊本地震では、まだ数は少ないですが耐震等級3でつくられた住宅にほとんど被害がなかったことが報告されており、耐震等級の考え方の導入の有効性が認められています。
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